世界を舞台にした農業革命:JICAを経験したからこそ見えるもの

小林果園 河澄恭輔 様
今回は、農業生産法人 小林果園グループで海外事業を手掛けている河澄様にお話を伺いました。河澄様は大学時代に農学部に所属し、林業などを学んだ後、商社、研究者、コンサルタント、営業など様々な職を経験されました。今回はそのご経験の中から、JICAでのお仕事について、また現在小林果園で取り組まれている海外事業について詳しくお話を伺います。
JICA時代のお仕事
Q.JICAについて教えてください

JICA(国際協力機構)は、日本の政府開発援助(ODA)を担う政府機関で、発展途上国の発展を支援することを目的に企画・運営を行っています。途上国の政府関係者と議論を重ね、その国の課題を明確にし、日本がどのように貢献できるかを検討し、プロジェクトとして形にしていくことがJICAの重要な役割の一つです。
Q.JICAではどのような業務をされていましたか?
主にアフリカで農林業に関わるプロジェクトを担当していました。先ほど挙げたように、政府関係者と議論をしたり、人材や資金などのリソースを集めたりしてプロジェクトの運営をするのが主な業務でした。学生の皆さんも耳にしたことがあるかもしれませんが、JICAが実施しているプログラムの一つに「青年海外協力隊」もあります。

Q.アフリカでの支援について教えてください
アフリカへの支援は、農業のウエイトが高かったです。JICAでは各国ごとに支援の重点分野を定めていますが、多くのアフリカの諸国では農業支援が必ず含まれます。アフリカでは人口の6~7割の方が農業で生計を立てているので、そのような方が中心となってどうやって農業の行き場を作るのかというのが重要になってきます。
Q.アフリカの農業の課題と日本の農業の課題について教えてください。
アフリカは、農業技術の面や農産物にどう付加価値をつけるのか、収入をどう上げるのかといった、日本がこれまで抱えてきた課題を追っているような状況でした。例えば、JICAでの取り組みの例として、マーケットでより高い価格で販売することを意識した農業を農家に理解してもらうことや、世界の先進的な技術をアフリカへ移転し、効率化を進めることなどがあります。こう見ると、アフリカにおける農業は、産業として大きなポテンシャルがあり、重要性が高いものだと感じています。

一方で、日本の農業は、「どのようにネガティブな面をリカバリ―していくか」が問われているように思います。実際、農業で生計を立てている人というのはわずかになっていますし、農業が厳しい状況になっているというのは明らかです。その中で、愛媛の柑橘産業は地域の生命線ともいえる存在であり文化的、社会的な背景からも極めて重要です。だからこそ、「どのように次の世代に残していけるのか」というのはこれからも考えていきたいところです。
小林果園の海外事業について
Q.海外事業について教えてください。

昨年3月、私たちはモロッコとチュニジアを訪れました。きっかけはみかんづくりを行う過程でどうしても出てしまう「捨てられるもの」を有効活用できないか考えたことです。調査を進める中で、アフリカの「ネロリ」の事例を知り、小林果園のビジネスに応用できるのではないかと考え、現地視察を行いました。
また、もう一つの海外事業として、スリランカの技能実習生の受け入れも進めています。
Q.現地視察を経て、どのような変化がありましたか?
視察を通じて、日本国内でもフレグランス製品を生産できる可能性を確信しました。これを我々のビジネスとして展開する上で悩んでいるのは、どういった商品ができるのか、というところです。現在は化粧品や香料を扱う企業と議論を重ねたり、専門機関で分析を行ったりしながら模索しています。
一方で、小林果園としての生産体制の準備も進めています。西予市にある程度の土地を確保し、原料となるビターオレンジの苗を植えています。数年後までにはある程度花が生産できるような体制にしたいと考えています。

Q.スリランカの技能実習生について教えてください。
昨年からスリランカの人材を受け入れています。ベトナムの技能実習生はすでに多く、日本国内にコミュニティが形成されているため、日本語をあまり学ばなくても生活できる環境があります。しかし、スリランカの方々はまだ少なく、地域でのサポートが必要な状況です。
話が少し変わるのですが、スリランカの方たちは日本人と親和性の高い国民性を持っていると感じます。非常に穏やかで、日本人と共通する価値観も多いです。また、驚いたのが語学能力の高さです。まだ日本語の勉強を始めて間もないという中だったにもかかわらず日本語での意思疎通ができ、その語学能力の高さに驚きました。
学生について
Q .今後、学生と一緒にやってみたいことはありますか?
ネロリの商品開発に、ぜひ学生の皆さんと一緒に取り組みたいと考えています。若い世代に関心を持ってもらえる商品を作るには、若い方の視点が不可欠だからです。もう一つは、海外の方との関わりですね。先ほど挙げたようなスリランカの方と積極的にコミュニケーションをとってほしいです。やはり田舎となると海外の方に対して距離を置きたいというような雰囲気もあるのですが、そうした状況の中で、何が課題でどうしなければならないのかということを若い方中心に考えていただければと思います。
Q.最後に、学生へ一言お願いします。

これからの時代、若い方たちにとって日本だけにとどまるという選択肢はもう残されていないだろうと思います。日本全体どこを見ても、日本人だけでやっているところはおそらくないでしょうし、海外の方と協力しながら、あるいは競争しながら自分のキャリアを作っていかなければならないと思います。もうそこに選択の余地はなく、「海外と関わる」ことは与えられた条件であるということを覚悟していただきたいです。ただ、それだけにそこにはとても大きな可能性が広がっているとも感じています。これはすごく楽しいことであるし、自分の力にもなることなのだということを、私は皆さんに強調して伝えたいです。
小林果園様
小林果園グループは、愛媛県八幡浜市に拠点を置く農業生産法人です。えひめ学生起業塾には長年に渡り関わっていただいており、昨年は塾生の「お城下マルシェ」への出店や「地域インターン」への参加などにご協力いただきました。また、えひめベンチャー支援機構のVSO会員としてもご支援いただいています。