「日本に住む全員が農業と関わる世の中」を作るために

胡 菜摘さん

「Agurevi」~新しい風を農業に~

私は幼いころから、農業と自然に触れ合う環境で育ってきた。実家は農家ではないものの、周辺には田畑が広がり、近所の農家の方々の畑で収穫を手伝ったり、田んぼで生き物を捕まえて遊んだりと、自然と親しむ機会が多かった。そうした環境の中で、私はすっかり自然が大好きな子どもに育ち、高校生になる頃には農学部を志すようになっていた。(結果的には別の学部を選択したが…)

失われた風景が私に与えた“行動の原点”

しかし、高校生の頃、私の身の周りには大きな変化が訪れた。かつて田畑が広がっていた場所が次々と宅地開発されていったのである。幼いころから慣れ親しんだ風景が失われていく光景を目の当たりにし、言葉にできない寂しさを感じるとともに、「これからの子どもたちは、私のように自然と触れ合う機会を持てなくなるのではないか」と悔しさがこみ上げた。

この経験を通じて、私は「農業を活性化させ、次世代へとつなぎたい」という思いを強くした。そして、その思いを実現するため、愛媛大学・社会共創学部に進学し、農家の方々との関わりを深めていった。大学での活動で実際に農家の方々の話を聞き、現場の状況を知る中で「農業にもっと若者が関わる仕組みが必要だ」と感じるようになった。その思いから立ち上げたのが、「Agurevi」である。

“Agurevi”でつくる、農業と若者をつなぐ新しい仕組み

私が立ち上げたのは、農家と学生がつながるサイト「Agurevi」である。このサイトは、農業に関わる多様な作業をより多くの人で分担し、農家一人ひとりの負担を軽減することを目的としている。「農業に関わる多様な作業」には、収穫や植え付けといった典型的な農作業だけでなく、HP作成、パッケージデザイン、SNS運用などの広告・ブランディングに関わる業務も含まれる。こうした多様な業務を含めることで、これまで農業に関わることのなかった層を農業関係者として引き込み、より多くの人で農業を支える仕組みを作ることを目指している。

さらに、「Agurevi」には、従来の農業アルバイトのサイトとは異なる仕組みがある。一般的な農業アルバイトサイトでは、農家が作業内容を提示し、希望者が申し込む形が主流だ。しかし、「Agurevi」では、学生が自分の得意分野ややりたい仕事をアピールし、それを見た農家がオファーを出せる仕組みも取り入れた。これにより、農家は新しいアイディアや人材を得る機会が増え、学生は自分のスキルを活かした仕事に挑戦できるようになる。

この仕組みを通じて、農家と若者がつながる機会を増やし、農業を、地域を、そして日本をより元気にしたい。それが、私が「Agurevi」に込めた思いである。

大学進学後の私の歩み

私は大学進学を機に愛媛へ来た。そして、この2年間、多くの方々に支えられながら活動を続けてきた。特に西予市明浜地区の方々には大きな支えをいただき、私が愛媛で農業の課題に取り組むことを決意したのも、今こうして事業を続けられているのも、この方々との出会いがあったからこそである。
だからこそ私は、まずは愛媛の農家や学生をサポートできる体制をいち早く整えていきたい。松山市に住んでいる愛媛大学の友達から徐々に広げていき、最終的には全国へと輪を広げていきたいと考えている。そして、今ある農業の課題を活かしながら、愛媛から新たな風を吹かせる存在 になりたい。

農業を“誰かの仕事”から、“自分ごと”へ

農業人口の減少、地方の衰退、耕作放棄地の増加
―――こうした課題は、今の時代、多くの人が耳にする。しかし、それをどうにかする手段を持っている人は少なく、「自分には関係ない」と考える人も多いのが現状だ。食料は、私たちが生きていく上で必要不可欠なものである。だからこそ、農業に触れる入り口を私たちが作り、いつか日本に住むすべての人が農業の課題を「自分ごと」として考えられるような世の中にしたい。そのための第一歩として、私は愛媛県で、「Agurevi」を通じて農業と若者をつなぐ仕組みを広げていく。

取材後記

胡さんの歩んできた道のりは、決して特別なスタートではありませんでした。けれど、幼いころに感じた自然への愛着や、失われていく風景への悔しさを、行動に変えてきたその姿は、今まさに、これからの農業の可能性を切り拓こうとしています。
農業は、もう“誰かのもの”ではなく、“私たち一人ひとりが関わるべき未来”です。
「Agurevi」は、その最初の入り口を優しく、でも力強く開いてくれています。
これから衰退の道を辿らせてはならない日本の農業に対して、胡さんがこの愛媛の地から挑戦をはじめている今。
皆さんも、ぜひ彼女の取り組みに注目し、一緒に応援しましょう!

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